幸せをあなたと探す研究所。 100年生活者研究所幸せをあなたと探す研究所。 100年生活者研究所

文字サイズ
標準
メニュー
2024.04.03

誰もが役割と居場所のあった昔の暮らし。その暖かく、わずらわしい「ゴジカラ村」という暮らしかた。

「人生100年時代の町づくり」とはどのようなものなのか?

私たち100年生活者研究所では、社会に還元するトライアルとして「100年生活のまちづくり」プロジェクトを立ち上げ、まちづくりに関わる企業や団体、個人を取材し、様々な角度から100年生きたくなる社会の仕組みを創出する活動を始めた。

訪れたのは、愛知県長久手市で42年もの歴史のある「ゴジカラ村」。ゴジカラ村とは、自然と共に共生する多世代共生活動拠点の総称であり、事業概要は大きく3つに分けられている。学校法人吉田学園の運営する幼稚園、看護専門学校、社会福祉法人 愛知たいようの杜は介護保険事業(特別養護老人ホーム(以下、特養)、グループホーム、デイサービスなど)と地域包括支援センター、そしてゴジカラ村役場株式会社は生きがい支援事業、介護保険事業などを行っている。今回は、社会福祉法人 愛知たいようの杜 理事長 大須賀豊博氏に話を伺った。

雑木林が暮らしの座標軸。様々な人が自然と共に混ざって暮らす「ゴジカラ村」。

根嶽エリアのゴジカラ村マップ。他に岩作長池エリア、前熊下田エリア、打越エリアにも施設がある。

ゴジカラ村の名前の由来は、「5時から(ゴジカラ)の時間に追われることのない暮らし方」という意味。仕事のように数字や効率とは反対の「手間がかかってわずらわしくて、不便で思い通りにならない」暮らし。自然の時間の流れを大切に、自然と共に暮らすことで、多くの人の活躍の場が生まれ、関わる全員が居場所を感じる暮らしを目指している。

1万坪の雑木林につくられたゴジカラ村は、「雑木林が暮らしの座標軸」であり、園児から高齢者までの様々な人が混ざって暮らしている。雑木林はいろいろな木が混ざっている。木は、隣同士違う木を密に植えると互いに競い合って成長し、お互い少しずつ我慢して循環していく。同じ木を集めると途絶えてしまい、違うものを混ぜることで森は成り立つのだそうだ。人間社会も同じ、未完成で良いし、混ざって暮らす事が大切という考えを示しているのだ。

創設のころより、この風景を何よりも大切にし、山の形を生かし、木はなるべく切らず、建物は雑木林の高さを超えないように設計されている。室内も床は全て木材を使用し、廊下は少し曲がってデザインされている。会社や病院のような無機質な空間ではなく、温もりを感じ、会話が生まれやすい。そして雑木林も人も建物も、自然の一部ということを意識している。

いろんな人を混ぜ合わせることで役割が生まれた。「なるほどな」と気づく。人は、誰かに必要とされる、役に立っていると感じた時に幸せを感じるのだ。

最初の幼稚園ができた時の事。子供たちが森の中で遊んでいるうちに目が届かないところに行ってしまう。地域の人たちに相談すると、近所のお年寄りの方たちがかってでてくれた。助けに入ったおじいちゃん、おばあちゃんがいつの間にか生き生きしてきた。「なるほどな」と気づいた。自分の役割を持ち、居場所があることが大事と実感した。このことがゴジカラ村の原点となった。

困ったことがあったときは抱え込むのではなく、周りの人にオープンにする。「じゃあ手伝おうか」という声が生まれる。困りごとが解決すると自分たちのためになり、助けてくれた人も「人の役に立った」というやりがいになる。いろいろな人に関わってもらい、上手につなぐことで仲間が増える。そうやって人を巻き込んでいくのは大事なことと語る大須賀氏。

特養などのお年寄りの住まいでも人とつながる工夫をしている。淋しいという声を聴いたら幼稚園の子供たちが遊びにやってくる。ボランティアの方、ご家族、犬や猫、ウサギなどの動物たちも訪れる。施設のつくりにも工夫があって、中から外を見ると誰かがそこにいるというデザイン。個室は廊下の片側に配置し、共有スペースは大きなガラス張りの窓で外に向いてつくられている。外を見れば子供たちが遊ぶ姿があり、来客者の通る姿がある。外に開かれた工夫で、緩やかに人と関わって暮らせるような場所ができる。

その他にも、ここに来る誰にも「役割」をつくることを大事にしている。誰かの役に立っていると感じたときに幸せを感じ、居場所にかわってくる。

リタイア世代の方たちが活躍する「きねづかシェアリング」。「昔取った杵柄」を活かして、困りごとや悩みを解決してくれる。

古民家「ほとぎの家」は地域交流スペースで「生きがい支援」ということをやっている。例えば、若い人の「子供を預ける場所がない」という困りごとがあったとき、時間のあるシニア世代が面倒を見る。「役割がない」と思っているお年寄りの「生きがいに」変えるのだ。

子どもたちの役割は、元気な姿をみんなに見せてあげる。寝たきりのお年寄りはその姿を子供たちに見せてあげることが大事。それも役割として頑張ってくれているということ。来客の方も、どんな形でも、施設に入ってきた方はボランティアと考えている。お年寄りは「誰だろう」と思ってみる。それが良い。誰も来なかったら、そんなことも思えないからだ。

いろんな人が混ざると当然、もめごとやうまくいかないこともたくさんある。だけど人の本来の暮らしである。いろいろな価値観、考え方があるから、違いがあって当然。だから手間もかかるし時間もかかる。わずらわしさを良いことと捉え、おおらかに暮らす。「ほどほどでいいよね」「だいたいにしておこう」「まあいいか」許し合える言葉を口にする。折り合いをつけながら、歩み寄ることが大切なのだ。暮らしの場には完成形は無い。正解はあったとしてもひとつではないのだ。

自然に圧倒された「もりのようちえん」。子供たちの元気な声が響き渡る。

もりのようちえん。園庭

特養から幼稚園に向かう道すがら、「この木は僕らが植えたんですよ」と大須賀氏。区画整理で減歩されたときに、いろいろな木をみんなで植えたそうだ。その道はやっぱり少し曲げている。人が歩くことをイメージしてデザインしたそうだ。

子供が子供らしくすごす園をめざした「もりのようちえん」は雑木林がそのまま園庭になっている。園舎はログハウスで造られ、「おはようございます」と部屋で挨拶をした後は、ひたすら森の中で遊ぶ。お昼はお弁当を好きなところで食べるのだそうだ。

そして、隣にはケアハウス(50人が暮らすお年寄りの住まい)が建っている。窓の外、開けるといつも子供の声が響いている。一緒には暮らせないけど隣同士で、お年寄りだけだと淋しい思いをすると、ここにも緩やかにつながりがつくられている。

もりのようちえん、入口(左)と室内(右)

介護職員は限られた資源。この業界を担ってもらっている方を、住民や国民がもっともっと応援して欲しい。

ゴジカラ村の入り口付近まで歩くと「もりのがくえん」看護の専門学校がある。かつてはここに介護科もあったそうだ。専門学校での介護福祉士資格取得ニーズが大きく減り、5年前に閉めることになった。介護職員不足を象徴するような出来事だ。

介護が必要な方は年々増えている。一方で介護職員の不足は深刻化が進む。そして、厚労省から介護事業実態調査※で特養が初めて赤字に転じたことが発表された。

※厚生労働省2022年度介護事業経営実態調査(2023年11月10日発表)

介護職は資源と大須賀氏はいう。資源は限られているので、みんなで分け合って利用することを考えていかないと無理な時代に入ってきた。今までのように、介護保険で可能な範囲を目いっぱい使おうとしていたら、多くの人にサービスは届かない。もう少しコンパクトに、必要な部分だけを限られた資源を分け合うという視点に変えていく必要がある。住民の方も行政も理解が必要だ。

介護の働き手を増やすために、仕事の内容をイメージしやすく、見える工夫をすることが必要と考えている。イメージできないから働きに行こうとはなかなか思えない。イメージアップへの取組は介護業界の大きな課題となっている。

イメージアップして、みんなが応援してくれることで、やりがいにもつながる。応援してくれる人が増えれば、働き手も増えるかもしれない。そこにちゃんと報酬が伴ってくれば良いと思うのだが。

これからの日本のまちづくりのために

日本のまちづくりという視点で、お感じになっていることはあるか聞いてみた。大須賀氏は「基本は3世代以上で暮らせる環境がととのうのがいいな、と僕は思います」と話す。実際に以前は103歳のおばあさまから小学校低学年の子供まで10人暮らしをしていたそうだ。「すごく良いなと思った。嫁姑の関係がわずらわしくても、それも必要なこと。介護への向き合いも変わってくると思う。固定資産税や相続税が変わってくれば大きな屋敷にみんなで住めるのではないか?どうだろう?」と想像を膨らませて話してくれた。

高齢者の課題は高齢者だけでは解決できない。子供の課題も同様だ。家庭のなかでもいろいろな人が混ざって暮らす。子供は笑顔と元気をふりまき、お年寄りは若者や子供たちに経験を伝えていく。そして、1歩外に出ても同じようにいろいろな人が混ざっている。誰もが役割と居場所のあった昔の暮らし。それが大切なことと改めて語ってくれたのだった。

100年時代のまちづくりを考えていくうえで、いきなり多世代の生活は無理かもしれない。できる範囲で良いと思う。周りの人たちに目を向け、暮らしの中でのつながりを大切に。困りごとは身近な人に相談してみる。相談を受けたら空いている時間をその人のために使う。そんな人間関係を大切にしたい。暮らしの時間は「のんびり、ぼちぼち、ほどほど、だいたい」無駄を大切にする。暮らし方のデザインを変えていくことも、これからは必要と思うのだ。

プロフィール
研究員
大原 美弥子
社会人40年、​前半をグラフィックデザイナー、後半をプロデューサーとしてコミュニケーションに携わる仕事をしてきました。​
“100年生活を楽しむ” ための様々な活動の紹介・提案をすることで、社会に良い兆しが生まれる手助けができたらと考えています。