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2025.01.31

なかなかやめられない“不健康な習慣”から考える、人生100年時代の「不健康」との付き合い方

健康に良くない、けどやめられない!

健康に良くないと分かってはいるけどやめられない、あなたにもそんな経験はありませんか? お酒や煙草、ジャンクフードや甘いもの、運動不足に睡眠不足、不健康な習慣や嗜好は日常にありふれています。むしろこれらを徹底的に排除した生活を送れている人の方が少ないはずです。アンケートでも、4人中3人が不健康な習慣や嗜好が「ある」または「少しはある」と回答する結果になりました。

「健康に良くない」習慣・嗜好の有無

不健康な習慣・嗜好の内容は、1位が運動不足、2位がスマートフォンやSNSの見すぎ、3・4位はどちらも睡眠に関する不健康な習慣でした。選択式のアンケートでは5位となった不健康な食生活ですが、自由回答のアンケートでは甘いものやお菓子、ファストフードや揚げ物が好きでよく食べるという回答が散見されました。

「健康に良くない」習慣・嗜好の内容 ランキング

身体には悪いけど、精神には良い「不健康」

不健康な習慣は文字通り、健康には良くないでしょう。しかし、だからといって全面的に悪いものなのかというと、少し話は変わってきます。不健康な習慣に良い面があるとしたら、どのような面だと思いますか。

まず考えられるのは、身体の健康にとっては良くないけど、精神の健康にとっては良いというパターン。アンケートでも不健康な習慣の良い面として「ストレスの解消」と答えた人が最も多いという結果になりました。

「健康に良くない」習慣・嗜好の「よい面」 ランキング

いくら精神の健康には良いといっても、依存し、それなしにはいてもたってもいられない状態になってしまったら、かえって精神の健康にも良くなさそうです。しかし、そういった依存症などの極端な場合においてさえも、その不健康な習慣や嗜好が精神的には良い機能を果たしていることがあるといいます。その行為をしているときだけは、ずっと悩んでいる苦痛から一時的に解き放たれ、その結果、ほんの少し生き延びることができるからです。

行き過ぎた「健康主義」の先にあるディストピア

不健康にも一定の価値があるかもしれないとはいえ、「健康」が万人にとって重要な価値であることに変わりはなく、これを「重要ではない」と言い切れる人はなかなかいないと思います。だからこそ、健康は強力なイデオロギーにもなりうると警鐘を鳴らしている人たちもいるのです。

伊藤計劃『ハーモニー』やユーリ・ツェー『メトーデ 健康監視国家』などのSF小説では、「健康主義」が行き過ぎた架空の近未来社会が描かれています。そのような社会では、健康はもはや権利ではなく“義務”であり、個人の身体は“公共の財産”です。不健康は絶対的な悪であり、犯罪となります。例えば、自分にとって大切な人が亡くなったとき、落ち込んで一時的に引きこもったり、ご飯を食べなかったりあるいは食べすぎたりすることさえ許されません。

極端な例ではありますがこのようなSF小説を読むと、健康とともに「不健康」もまた、私たちにとって大切な人生の一部であり、重要な権利なのではないかと考えさせられます。

人生100年時代の「不健康」との付き合い方

「健康」は人間にとって重要な価値ですが、他にも重要な価値はいくつも挙げることができるでしょう。

では、健康より重要な価値はあるのでしょうか。アンケートでは、健康より重要な価値として「幸福」を挙げる人が最も多く、次点で「健康より重要な価値はない」と答える人が多いという結果になりました。

健康より重要な価値

しかし仮に「健康より重要な価値がない」としても、だからといって「健康以外の価値が重要でない」ことにはなりません。これまで私たちは、「健康」と同時に、その反対の意味を持つ「不健康」もまた、健康ほどではないとはいえ、重要である可能性について見てきました。人は健康に生きたいと同時に、不健康なこともしたい、そんなアンビバレントな欲望を抱えています。だとすると、人生においては、最も重要な価値だけを大切にするのではなく、同時に2番目以下に重要な価値も大切にしながら、バランスをとっていくのが理に適っていると言えるかもしれませんね。

あなたにとってこの記事が少しでも、人生100年時代の「不健康」との付き合い方を考えるきっかけや参考になれば幸いです。

【参考文献】

ペトル・シュクラバーネク『健康禍 人間的医学の終焉と強制的健康主義の台頭』大脇幸志郎訳、生活の医療社、2020年

松本俊彦・横道誠『酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話』太田出版、2024年

伊藤計劃『ハーモニー』ハヤカワ文庫、2010年

ユーリ・ツェー『メトーデ 健康監視国家』浅井晶子訳、河出書房新社、2024年

【調査概要】

■調査手法: LINEによるアンケート調査

■調査対象者:100年生活者研究所 LINE会員 20-80代男女1,624名

■調査期間: 2024年12月

プロフィール
研究員
大西 はるひ
コピーライター。詩人。哲学徒。
2社の広告制作会社を経て、2022年大広に中途入社。
「幸福」と「人生の意味」という似て非なる概念の探求を通して、幸福で意味のある人生について考えていきます。