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2024.09.26

100歳のリアル Vol.2 「100歳のココロ」を知る。

100年生活者研究所の調査によると、日本の平均寿命は延びる傾向にあるにもかかわらず、「100歳まで生きたくない」と考える人が、7割を超えています。

その要因の一つに、「100歳まで生きること」をイメージできていないことがあるようです。

第二回は、心理面から百寿者や、110歳以上の超百寿者について長年研究を進められている、大阪大学 老年心理学教授の権藤 恭之さんにお話しを伺いました。

権藤 恭之(ごんどう・やすゆき)氏 大阪大学大学院人間科学研究科臨床死生学・老年行動学講座教授、日本老年社会科学会理事、日本応用老年学会常任理事、The Gerontological Society of America Fellow.日本心理学会代議員2000年より慶應義塾大学と共同で東京都23区の百寿者、および全国の超百寿者を対象とした訪問面接調査を行っている。2010年からは東京都健康長寿医療センター研究所、慶應義塾大学医学部と共同で、高齢者の縦断調査SONICを開始。超高齢者を対象に健康長寿を達成するための要因を研究しながら、どうすれば超高齢期を幸せに過ごすことができるのか、その環境づくりを考えている。

Q 実際に100歳の人は、幸せなのでしょうか?

(田中)

以前、100年生活者研究所で、「100歳の人がどのように見えるか」についてのアンケートを実施しました。その結果、「100歳の人は幸せそうに見える」と答えたのは33%、「大変そうにみえる」と答えたのが57%でした。周りの人からは、幸せそうというよりも大変そうに見えているようなのですが、実際のところ、100歳の方はどの程度幸せなのでしょうか?

(権藤教授)

歳をとると、どうしても身体的な機能は低下していきます。

100歳になると、自立した生活ができる人は約2割。85歳以上の超高齢者だとおよそ6割になります。

※ 権藤教授から頂いた資料から抜粋

この研究を始める前は、身体の機能が落ちていくと不幸せになるのが普通ではないかと思っていました。

しかし、実際に調べてみると100歳になっても幸福感はあまり下がっていませんでした。

※ 権藤教授から頂いた資料から抜粋

身体機能が低下して自立した生活ができない人のデータを年齢別に比べてみると、若い層では幸福度は低くなっているのですが、年齢が上がると伴に幸福度も上がっていました。

100歳の人では、自立した生活ができない人と、それ以外の人の幸福度はほとんど変わりがありません。

※ 権藤教授から頂いた資料から抜粋

Q 100歳の人の幸福は、どのようなものなのでしょうか?

私たちが、主観的幸福感の評価をするための尺度が3つあります。

  1. 老いに対する態度(Attitude Toward Own Aging) •今、若い頃と同じくらい幸せと思いますか

  2. 孤独感・不満足感(Lonely Dissatisfaction) • 生きていても仕方がないと思うことがありますか

  3. 心理的動揺(Agitation) • いろいろなことを心配しますか

この3つをインタビューの中で聞いていくのですが、ある105歳の方のインタビューでびっくりしたことがありました。

その方が100歳の時に調査に参加してくれた時はすごく元気でした。自分で歩いて調査会場まで来てくださったんです。ところが、105歳の時にご家庭に訪問すると、ベッド上に寝たきりの生活になってしまっていて、トイレも自分で行けないような状態でした。

そこでも、幸福感の尺度の「生きていても仕方がないと思うことがありますか?」を聞いたんです。

この状態でこんなことを聞いて、落ち込むことになるのではないかと思って心配していたのですが、その方は「いろいろとできないことはあるけれど、生きていたら娘の話し相手になってあげられる」と前向きに語ってくれました。この時は、本当にびっくりしました。

私たちは、たくさんの百寿者の方から話を聞いてきました。

ある107歳の女性の方は、「若い頃と同じぐらい幸せですか?」という質問に対して「子供の頃は子供の楽しみがあったが、年寄りには年寄りの 楽しみがある」とおしゃってました。

こちらは、そんな百寿者の方たちの特徴を、共同研究者の安元さんとまとめたものです。

※ 権藤教授から頂いた資料から抜粋

百寿者の方は、身体的な制約がある中で自分ができることに焦点を当て、前向きな気持ちで現在の生活を楽しむ一方、できないことを受け入れることで幸福感を得ていました。

ここにみられる百寿者の幸福感は、いわゆる「老年的超越」と重なる部分が多くみられます。

Q 老年的超越とは、何でしょうか?

私たちが注目しているもので、そもそもはスウェーデンのトーンスタムさんという社会学者の方が言い始めた考え方です。 老年になると「物質主義的で合理的な世界観から,宇宙的, 超越的,非合理的な世界観への変化」 が起こるということを提唱しています。

老年的超越の究極にいるのが、百歳の人なんじゃないかということで研究を進めているのですが、実際に、80代後半ぐらいの方は超越的な感覚を持つ方がおられます。

「公園で遊んでいる親子を見るとつながりを感じる」といった方がいました。聞くと「子供がいて、お父さんがいておじいちゃんがいて、そのまたおじいちゃんがいて、子供の先にも子孫が繋がっているというのを感じる」と。同じような意味で、「その親子となんか親戚みたいに感じる」と言う人もいました。「朝、目覚めると、まだ生きているなあ と、不思議に感じる」ということをいう方は結構おられます。

※ 権藤教授から頂いた資料から抜粋

Q 100歳まで、前向きに生きるにはどのようにすればよいのでしょうか?

幸せな100歳には2種類いると思います。

相応に元気な状態を維持しつつ100歳になる人と、体の調子が低下するけれど、その変化に適応して幸せに生きている人です。

おそらく、後者の方が多いでしょう。

調子が悪くなって自分ができないことが増えた時に、人に助けてもらいながら、その状況に適応して生きるということが、人生100年時代の幸福感につながるのではないでしょうか。

適応のために、老年的超越という考え方の変化を意識していくことが、幸福な長寿の鍵であると考えています。

この図は、私が考える人生100年時代を幸せに生きるための戦略です。

比較的若い時は身体的な健康促進を中心に、だんだんと年取ってくると活発にして活動量が落ちるのを低下させようと努める。それでも限界は来るので老年的超越で変化に適応して心を幸せにしていきます。

年齢別に、三つのモデルの比重を変えていくのです。

※ 権藤教授から頂いた資料から抜粋

今の人たちは、誰もが歳を取った状態になりたくないと考えています。だから長生きしたくないのです。長生きした先に、いきなり「寝たきりの不幸な人」になるようなイメージを持っています。その過程の「次第に衰えつつあるけれど、幸せに暮らしている人」のイメージがない。

その歳をとる過程のイメージを変えていくことが必要だと思います。

ある年齢になったらこのような幸せ、もっと歳をとって身体の状態が変わればこんな感じの幸せ。どのような状態でも幸せでありうるということを理解することが重要です。

2050年、日本の100歳人口は50万人になります。

多様な高齢者の多様な幸せの形を認識する人が増えれば、これからも幸せな人は増えていくのではないでしょうか。

プロフィール
副所長
田中 卓
95年博報堂入社。23年から100年生活者研究所副所長。
一人ひとりが100年間の人生を、100%生ききることができる社会を目指し、
研究に取り組んでいます。
共著に『マーケティングリサーチ』。