街中で見かけるアート作品をみなさんはどれくらい覚えていますか?美術館やギャラリーで展示されるアートとは異なり、パブリックアートは私たちの日常空間に自然に溶け込んでいます。ここで言う「パブリックアート」とは、公共の場に設置されたアート作品のことを指し、彫刻や壁画、インスタレーション、ランドアートなどがこれに含まれます(図1)。

パブリックアートは街中にたくさん存在していますが、調査結果によると、実に70%の人々が街中のパブリックアートに気づいていないというのです(図2)。

パブリックアートは美術館のアートと比べると、生活者が意図して見る機会が少なく、それにより受けている影響を自覚しづらいという特徴があります。図3では、美術館の作品は「見ること」を目的として訪れる人が多い一方で、パブリックアートは日常の中で偶然出会うことが多いことがわかります。

また、美術館の作品に対してポジティブな感情を抱く人が多いのに対し、パブリックアートに対しては感情の動きが小さいという結果も得られています(図4)。これらのデータは、その偶然性によりパブリックアートは生活者の無意識の領域に存在し、視界には入っていても、意識にまでは届いていないことを示しています。

前述のように、私たちはパブリックアートが与える影響を認識しづらいものです。しかし、意識的に気づいていなくても、行動には確かな変化が現れることがわかってきました。筆者たちは実際に街へ出て観察調査を行いました。場所は、アートと都市が調和すると想定される街・東京・六本木で、観察は、パブリックアートのある通りとアートのない通りの2か所にて実施しました。

各地点での通行人30人ずつを対象に10メートル範囲内での行動を記録した結果、アートのある通りでは30人中11人が途中で顔を上げ、そのうち数人が立ち止まったり、スマホから目を離したりする様子が確認されました。一方、アートのない通りでは、顔を上げたのはわずか4人にとどまり、多くの人がスマホを見たまま歩き続けていました。

私たちが歩きながらスマートフォンを見ているとき、視線も意識も画面に集中し、周囲への注意は狭まりがちになります。そんな状態にふと割り込んでくるのがパブリックアートです。アートは“歩く”という行動の流れに割り込むノイズとして作用し、注意を引くと同時に、歩行という無意識のルーティンに揺さぶりをかけます。この行動の差は、パブリックアートが単なる装飾ではなく、私たちの無意識に働きかけ、行動を変える力を持っていることを示しています。歩きスマホを減らすきっかけにもなりうるこの効果は、都市におけるアートの新たな可能性を示唆しています。
パブリックアートは意識されにくい存在でありながら、私たちの行動にポジティブな影響を与え得る力を持っています。それは視覚だけでなく、心理や行動にも働きかける静かなメッセージのようなものです。日常に埋もれて見過ごされがちですが、だからこそ日々の中でふと心をゆるめたり、立ち止まったりする契機を与えてくれる存在なのです。歩きスマホが減ることで、私たちは周囲の景色や人々に目を向ける機会が増え、都市空間との新たな対話が生まれます。予期せぬ発見や、街の多様な表情に気づくことで、日常がより豊かになり、「新しい幸せ」につながるのではないでしょうか。私たちは、より安全で、より豊かな感性で街を享受できるようになります。街中に点在するアートにもう一度目を向けてみてください。気づかなかった何かに、気づけるかもしれません。
【調査概要】
■調査名:パブリックアートに関する調査
■調査対象者:100年生活者研究所LINE会員 20代以上男女 2747名
■調査手法:LINEによるアンケート調査
■調査期間:2025年3月