前編では、調査から現代男性と健康・ケア課題の実態と、識者のインタビューからビジネス男性が自分をケアするためのマインドセットを探りました。後編では、今度は「シェア」をキーワードに男性がセルフケアに取り組むことの可能性を掘り下げます。
自分のために時間をとることや、健康のためになにかし始めたなど、セルフケアすることの手応えを感じた男性の声を聞く中で、その感覚が1人だけにとどまるのはもったいない、冒頭で説明した「利他社会」に貢献するものでありたいと、今回筆者は、ひとりよがりのセルフケア行動だけでなく、それを「シェア」する行動促進を目指しました。
シェアはモノや情報の「共有」や「提供」とも言い換えられますが、2019年、シェアリングエコノミー協会代表の石山アンジュ氏は著書『シェアライフ』で「『シェア』の本質はつながり」とも書いています。2025年、馴染みきった「シェア」というキーワードを、ケアや利他行動の促進と関連付けることはできないかと考えました。

筆者の提示したケア・シェアリング行動の選択肢について「特に実施していない」男性の解答が59.3%と半数以上の結果となりました。リアルのヒアリングでも、オンラインのアンケートでも、それぞれ「セルフケアのシェア」につながる行動例をいくつか提示しましたが、まだよくイメージが出来ていない回答者も多かったかもしれません。
一方で、この概念を自身の行動と結びつけて、前向きな所感もアンケートの自由回答欄には見られました。
多く見られた「相手が喜んでくれるのが嬉しい」や、喜ばせたい、楽しませたい、だから行動しているという内なる企画心は次のケア・シェアリング行動を後押しすると捉えられるでしょう。


ケア・シェアリングをしたい感情、逆に踏み出せない理由から、動機となる個人の感情にも目を向けることができます。
具体的にどんなシーンでケア・シェアリングをしたくなるか?という感情の動きと改めて向き合ってみると、筆者の場合、今まさに健康問題と向き合い、悩んでいる人(とメールやSNSで見聞きして知っている人)、すぐ隣で大風邪をひいている同僚や隣人や、つい最近やりとりをして再び結びつきが強くなり「今後も支え合いたい、労り合いたい」と思えた人も入るようです。
このように考えると、男女に関係なく、読者の皆さんにもひとりは「ケアしたい人」がいるでしょう。例えば、この季節では、子どもから風邪をもらって自分の不調を抱えながら働いている親御さんなど、皆さんの身近にも体調不良や風邪の人がいるのではないでしょうか?
ケア・シェアリングは難しいことを提案しているようですが、身近な場所からできることがあります。モノのギフトをするだけではなく、当事者の健康・ケアの助けになる情報を送るのも筆者には定番です。
また、集って健康・ケアに関するフリートークをするだけでもケア・シェアリング行動と捉えられます。東京・巣鴨の「seikatsu-sha cafe かたりば」(*)に常連として来ていた60代男性(会社を退職し、フリーを謳歌する60代男性)の会話でも、働き方や生活について語る延長では、必ず健康やケアに関する話題になりました。自分が身につけていない健康習慣でも、会話し、実践する人が身近にいれば誘い込まれるきっかけとなるでしょう。
デジタル時代のシェアリング行動として2025年に筆者が始めたことは、写真・動画のクラウドストレージを活用した家族でのアルバム共有です。これは単身赴任中の父が遠くでも筆者の生活上のセルフケアの取り入れ方や、本や雑誌、Webメディアからキュレーションした健康情報の切り抜きの投稿が見られるようにし、通知で更新がリマインドされるよう工夫したことに始まり、この家族内だけのシステムが半年以上続いています。家族でさえ対面禁止がやむを得なかったコロナ禍にも、この工夫があればよかったと振り返ります。
読者のみなさんには、どんなケア・シェアリングができるでしょうか。
この記事では読者の皆さんにも、ケア・シェアリング行動をする「ケアシェア男子」とはどんな男性像なのか、具体的な人物像としてもイメージしていただければと思います。

生きづらさやデジタル社会の閉塞感は、老若男女が抱える時代。その中で自分の心や体をむしばむことなく、個人がウェルビーイングを守りながら、より利他的な社会を拓くための意識づけとしてケア・シェアリングを個人から拡大していくこと提案します。さらに、それを実行する「ケア・シェア男子」(ケアダン)の行動で、利他社会がひらける可能性を展望しました。
今回お話いただいた経営者の井上さんにもケア・シェアリングにあたる自身の思い当たる行動について伺ったところ、
“朝活や読書会イベントは「好きのおすそ分け」をしている感覚だが、その健康効果は意図しないケア・シェアリングになっているかもしれない” とお話しいただきました。
このように「意識しない利他」ができるようになるには「セルフ」から「シェアリング」へケア行動を一歩踏み出すことが鍵となります。
情報取得手段が増え、「100年時代」を見据えた今、健康・ケアリテラシーは誰か・何かをきっかけに身につき、いくつになって始めても遅いことはないと言えるでしょう。ケア・シェアリング行動はビジネス男性だけでなく、100年時代を見据えたあらゆる性年代の行動として広がってほしいものです。
本研究を始めた約1年間、数々のケアダン(ケアに熱い男性)と交流がありました。
働き方や生活にも関わる多くの貴重な意見を聴取することができ、男性のケアの話に耳を傾けることが長く続けられるライフワークになったとさえ言えるかもしれません。
研究が終わっても、身近な男性、時には人生の先輩世代と健康・ケアに関する会話を日常的に続けていくでしょう。
個人が隣人へシェアすることから、より“ウェル”な利他社会を目指して。
【調査概要】
■調査手法: インターネットモニター調査
■調査対象者:10代〜60代の男性 600名
■調査時期: 2025年9月
*共創研究員は、博報堂の多様な部門に所属しながら研究活動を行う研究員。自らの「内なる想い」に基づく研究テーマを設定し、生活者発想によって「新しい生活者価値」を生み出す研究を進める。
