100年生活者研究所 2024定点調査レポート❶ 人生100年時代の二つの視点
3月20日は春分の日でもありますが、国際幸福デー(International Day of Happiness)でもあります。毎年、この日には幸福度の世界ランキングが発表されています。2023年度日本は47位でしたが、今年はどうなるのでしょうか。
私たち100年生活者研究所は、「人生100年時代についての人々の認識」を把握するために、年に一度、日本と世界の数カ国を対象にした調査を実施しています。
(昨年の調査についてはこちらを参照ください。 https://well-being-matrix.com/100years_lab/posts/100report230915/)
今回は、2024年3月に実施した最新の調査結果をレポートします。
「100歳まで生きたい人」は、日本が最も少ない。
はじめに、100年生活者研究所が最も注目している指標、「100歳まで生きたいと思うか」について見ていきます。
2024年3月時点でも、「100歳まで生きたい」と考える人は、28.4%と3割未満でした。
これは2022年10月の調査からまったく変化がありません。昨年度から100年の人生に向き合う態度が変わっていないことがうかがえます。
【100年人生意向】
ここからは、国別に比較していきます。
今回は、日本、アメリカ、中国、フィンランド、ドイツ、韓国の合計6カ国で調査しました。昨年とは対象国をいくつか変更していますが、昨年に引き続き「100歳まで生きたい人」は日本が最も少ないという結果になりました。
【国別 100年人生意向】
日本人は、100年人生のネガティブ・サイドに注目している。
日本と他の国で、100年人生に対する考え方はどのように異なっているのでしょうか?
【国別 100年人生の考え方】
グラフを見ると、日本には他の国と比べてはっきりと低い項目が三つあります。
自分の100歳までの人生を考えると、「みんなの役に立ちたい」という気持ちを感じる
「100歳まで生きる」のは、チャンスが増えることだと思う
私には、100歳の人は「幸せそうに見える」
この三つの調査項目は、100歳までの人生のポジティブな側面に関する項目でした。
今回の調査では、それぞれに対になる、ネガティブな側面に関する項目も設定しています。
〔100年の人生で、 みんなの役に立ちたい/迷惑をかけたくない〕
〔100歳まで生きるのは、 チャンスが増えること/不安が増えること〕
〔100歳の人は、 幸せそうに見える /大変そうに見える〕
それぞれの対になる項目への反応は、日本以外の国でも一定の傾向がみられます。
たとえば、ほとんどの国で「100歳まで生きるのはチャンスが増えること」と考える人よりも「不安が増えること」と考える人がやや多くなっています。
しかし、日本では、その差が極端に大きくなっています。
100年の人生では、「みんなの役に立ちたい(32.6%)」よりも「迷惑をかけたくない」(71.2%) のように、迷惑をかけることを意識する人が多い。
100歳まで生きるのは、「チャンスがふえること(28.7%)」ではなく「不安が増えること(60.0%)」と捉える人が多い。
100歳の人は、「幸せそうにみえる(21.1%)」ではなく、「大変そうに見える(59.5%)」と考える人が多い。
この三つの項目すべてにおいて、100年人生のネガティブな側面に注目する人は、ポジティブな側面に注目する人の二倍以上です。
日本人は、「100年人生のネガティブ・サイド」に注目してしまう人がはっきりと多いのです。
これが、「100歳まで生きたい人」が少ない要因の一つになっていると思います。
「100歳まで生きたい」のは、利他的で、長生きはチャンスと考える人。
しかし、3割に満たないものの、日本にも「100歳まで生きたい人」は存在しています。
少数派である「100歳まで生きたい人」には、どのような特徴があるのでしょうか。
このグラフは、先ほどと同じ質問を、「100歳まで生きたい人」と「100歳まで生きたいと思わない人」で分けて、その回答の差を見たものです。
左から、その回答の差が大きいものから順に並んでいます。左側にある項目ほど、「100歳まで生きたい人」に強くみられる特徴と言えるでしょう。
【100年人生意向別 100年人生の考え方】
これを見ると、「100歳まで生きたい人」では、日本で低く見られた三つの項目、「100歳まで生きるのは、チャンスが増えること」「みんなの役に立ちたい」「100歳の人が幸せに見える」が高くなっていることがわかります。
つまり、「100歳まで生きたい人」は、日本全体が100年人生のネガティブ・サイドに注目しがちな中で、ポジティブ・サイドに注目している人たちなのです。
「100歳まで生きたい人」は、利他的で、長生きはチャンスだと前向きに捉えているのです。
先ほどみたように、日本以外の国では、100歳までの人生に対する不安や大変さといったネガティブ・サイドがあったとしても、同時にポジティブ・サイドにも意識が向けられていました。
これらを踏まえると、「100歳までの人生のポジティブ・サイド」に光をあて、社会的な注目度を高めていくことが、これからの課題だと言えるのではないでしょうか。
幸福度も日本が最も低く、GDPで抜かれたドイツに及ばない。
昨年に引き続き、幸福度についても調査いたしました。「とても不幸せ」を0点、「とても幸せ」を10点として、幸福度を点数で尋ねています。
日本の幸福度は、20~70代の平均で5.9点でした。2022年10月の調査では5.8点でしたので、ほとんど変化がないと言えます。
国別にみると、六カ国中で日本が最も低くなっています。
中国が最も高く、フィンランド、ドイツが続きます。2023年に日本はドイツにGDPで抜かれて4位となりました。ここで見ると、経済指標だけでなく、幸福度でもドイツに及ばないことがわかります。
【国別 幸福度の平均点】
「日本の未来」に期待していない日本人
さらに、それぞれの国で「自国の未来についての考え」も聞いてみました。
日本は、未来への期待でも六カ国中で最も低くなっています。
「日本の未来は明るいと思う」「日本の人の幸福度は、長期的には上がっていく」「今後10年で、日本の経済は成長する」について、「そう思う/ややそう思う」と回答するのは、すべて2割強。
「幸福度の向上」も、「経済成長」も期待できず、日本の「未来は明るくない」と考えられている様子がうかがえます。
【国別 自国の未来への期待】
3人に2人は、「生まれ変わるとしても日本」
しかし、それにも関わらず「生まれ変わるとしても日本がよい」と考える人は63.7%で、およそ3人に2人にあたります。これは、ドイツを上回り、韓国とほぼ同等の数値で、他国と比較しても決して低くはありません。
【国別 自国の未来への期待】
なぜ、幸福度が低くて未来も明るくないにも関わらず、「生まれ変わっても日本」なのでしょうか?
これにはいろんな要因があるとは思いますが、ここでは一つの仮説を提示したいと思います。
私は、この背景には、幸せに対する考え方、幸福観があるのではないかと考えています。
京都大学こころの未来研究センターの内田由紀子さんの書籍『これからの幸福について』 1)には、「幸福概念には、『リベラリズム的』なものと「コミュニタリアリズム的」なものの二つが存在」するとあります。
リベラリズム的な幸福観は、「『個人が自由であること』を幸福の起点とし」「権利としての幸福を個人が有しているという考え」です。対して、コミュニタリアリズム的な幸福観は、「共同体を幸福の起点とし、利他性や協調性を最重視」するものであり、日本の社会は「『流動性』が低く、場の中でのネットワークを大切にする」とされています。
私は、この考え方が「生まれ変わっても日本」が高い理由につながっているのではないかと思いました。「共同体」や「場」が幸福の起点となるからこそ、どんなに先行きの見通しが厳しくても、自分がいる共同体と離れるという選択は取りにくく、みんなで一緒に幸せになりたいと考える人が、日本には多いのではないでしょうか。
だからこそ、日本でない国に生まれ変わるのはという選択肢は選ばれず、「生まれ変わっても日本」が高くなっているのかもしれません。
みんなで一緒に幸せになる。
幸福度が低く、100歳まで生きたい人も少ないのが、私たちがいる日本の現状です。
ここからよりよい方向に進んでいくために、私たちはどうすればよいのでしょうか。
それは簡単なことではありませんし、今回の調査だけで判断できるものではありません。
そのように思いつつも、今回の調査結果をみて感じたことがあります。
それは、「自分の幸せを考えること」と同じぐらい、「周りの人たちの幸せを感じやすくすること」が大切だということです。
幸せになるために「共同体の人たちが幸福に起点になる」のであれば、「周りの人たちは幸せだ」と感じた人の方が、その人自身も幸せになる可能性が高まります。
さらに、「自分の幸せを感じる回数だけ」よりも、「自分の幸せを感じる回数に、周りの人たちの幸せを感じる回数を足した回数」の方が、幸せを感じるチャンスは多くなります。そうすると、「100歳まで生きるとチャンスが増える」と考えやすくなり、100歳までの人生に前向きに向き合うことにつながりそうです。
「周りの人たちの幸せを感じやすくする」ためには、「コミュニケーションを続けること」が大事だと思います。それは、(当人のようにはわからないかもしれないことを前提としつつ)周りの人の喜びや痛みといった感情を受け取るためのセンサーを働かせ続けるということです。
その人が幸せになると自分も幸せになれるような「周りの人」の範囲を拡張し、増やしていく。これができれば、「他人の幸せ」で、自分も幸せになりやすくなれるのではないでしょうか。
そうすれば、みんなで一緒に幸せになる方向へ、少しずつではあっても進んでいけるかもしれません。
【100年生活者調査~2024年定点調査~】
■調査目的 :100年生活の実態について把握する
■調査手法 :インタネットモニター調査
■対象地域 :日本 全国
■調査日時 :2024年3月
■調査対象者 :20代~70代の男女 2800名
■調査会社 :株式会社アスマーク
【100年生活者調査 ~2024年定点調査 国際比較~】
■調査目的 :他国と比較して、日本の100年生活の実態について把握する
■調査手法 :インタネットモニター調査
■対象地域 :アメリカ、フィンランド、中国、韓国、ドイツ
■調査日時 :2024年3月
■調査対象者 :20代~70代の男女
・アメリカ、フィンランド、ドイツ:各600名
・中国:500名
・韓国:540名
■調査会社 :株式会社クロスマーケティング
一人ひとりが100年間の人生を、100%生ききることができる社会を目指し、
研究に取り組んでいます。
共著に『マーケティングリサーチ』。
今読んで欲しい「生きがい」に
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