人生100年時代の大人とは。
新年、2025年の成人の日は1月13日です。
国民の祝日に関する法律によると、成人の日は「おとなになったことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます」日とされています。 民法が改正され、明治9年から140年間、20歳だった成年年齢が、2022年4月1日から18歳に変わりました。
世界的にも、成年年齢を18歳とするのが主流であり、18歳、19歳の方の自己決定権を尊重し、社会参加を促すことが期待されています。
(https://www.moj.go.jp/content/001300586.pdf) 法的には「18歳は大人」となりましたが、生活者は「18歳は大人」だと考えているのでしょうか?そもそも、「現代における大人」とはどのような存在なのでしょうか?
「大人の実感」は20歳以上でも、「18歳は大人」だと考える人が過半数に。
今回の調査結果では、「大人だと自覚した年齢」が20代以上の人が、8割を超えていました。
しかし、それにも関わらず、全体の過半数が「18歳は大人」だと考えていることがわかりました。
18~20歳の「最近の新成人層」でみると、その7割以上が「18歳は大人」だと考えています。
ここからは、「20代以降に大人になった」という自身の経験とは切り離されたものとして、(民法の改訂を含めた)今の社会環境を踏まえた上で「18歳を大人」と見なす考え方が、社会に浸透しつつあることがうかがえました。
大人の自覚年齢
18歳の大人認識
大人の条件は、社会性、自立性、利他性。
では、今の日本で「大人」とは、どのような人なのでしょうか。
まず、今の日本人が考える「大人の条件」として、上位にあげられるのは、まず「社会のルールやマナーを守れる」、続いて「経済的に自立」「他人に対して配慮」「人や社会のための行動できる」でした。「社会性」や「自立性」、「利他性」が大人の条件とされているようです。
下のグラフ❸では、「最近の新成人層」の値は赤の折れ線で表されており、全体よりもほぼすべての項目で高くなっています。
これは、新成人層が、より多くの要素を「大人の条件」として重要だと考えているということです。新成人層は、大人になるためには「より多くの条件を満たす必要がある」と考えているのです。
大人の条件
新成人層と調査対象者全体との差の大きさ順に、並べ替えたのが、次のグラフ❹です。
新成人層で特に高い、特徴的な項目は、「問題をみんなと解決できる」「新しいテクノロジーを活用できる」「異なる文化や価値観を受け入れる」でした。「問題をみんなで解決できる(36.2%)は、「問題を一人で解決できる(21.8%)」より大幅に高く、大人は「一人ではなくみんなで問題を解決する」ものだと考えていることがうかがえます。
新成人層は、先ほどの「社会性」「自立性」、「利他性」に加えて、「協働力」「多様性」「技術力」も、大人に求めているようです。
大人の条件 :全体と新成人層の差の大きさで並び替え
新成人層の半数が、100歳まで生きたい。
最近の新成人層は、100年人生にも前向きです。
日本人全体で、「100歳まで生きたい」人は3割であるのに対して、最近の新成人層では半数を超える人が「100歳まで生きたい」と考えています。
「100歳まで生きたい」意向
また、直近の新成人層は、「人生100年時代の大人像」についての質問に対する反応が高く、「100歳まで生きたい」人と同等以上に「人生100年時代の大人像」をイメージしている様子がうかがえます。
人生100年時代の大人像
人生100年時代の大人はどんな人?
これからの「人生100年時代の大人」は、どのような人なのでしょうか。
日本人全体でも、「100歳まで生きたい」と考えている人でも、「年齢に関わらず自分らしく生きる人」「長い人生で楽しみを見つけ続けられる人」「経済的に自立した生活を送れる人」が「人生100年時代の大人像」のトップ3です。
経済的な基盤の上に、長い人生を「自分らしく、楽しく」生きられるのが大人ということです。
さらに、自分自身が「人生100年時代を生きたい」人たちの考える「人生100年時代の大人像」の特徴は何でしょうか。
「100歳まで生きたい」人と「それ以外の人」を比べてみると、三つの特徴が見えてきました。
100歳まで生きたい人の人生100年時代の大人像 トップ7
「100歳まで生きたい」人が考える「人生100年時代の大人像」の特徴の一つ目は、 『自分軸で生きる人』 (年齢に関わらず自分らしく生きる人)。二つ目は、『人生を探求し続ける人』 (いろんなことに挑戦し続けられる人、常に新しいことを学び続ける人、長い人生で楽しみを見つけ続けられる人)、そして三つ目は、『利他的に行動する人』 (環境に配慮して行動できる人、次世代のために行動する人、他人や社会のために行動できる人)です。
まとめると、人生100年時代を生き抜こうとする人は、「他人や社会軸ではなく自分軸で、常に新しいことに取組み続けながら、自分だけでなく社会のために行動できる人」を人生100年時代の大人と考えているようです。
先ほど、現代の「大人の条件」でみられた「利他」は、「人生100年時代の大人像」でも見られました。ここでは、「他人や社会のために行動」に加えて、「次世代のために行動」「環境に配慮して行動」という項目が大人像としてあげられていました。
この「他人、社会、次世代のことを考える利他の行動」と「自分軸で生きる」ことは、一見矛盾するようにも、見えます。しかしこれは、「他人、社会、次世代のことを優先するあまりに自分の考えを損なうことなく、あくまで自分軸から他人、社会、次世代のことを考えて行動する」人を大人と見做すということではないでしょうか。
人生100年時代は、大人が増えていく
今回の調査では、「18歳は大人」だと考える人が過半数という結果になりました。
しかし一方で、「大人であるかどうかは法律上の成年年齢とは関係ない」と考える人が6割を超えています。
大人と年齢の関係
成長は人によって異なります。「大人であること」が、年齢や法律だけで規定されるものでないのは当たり前のことです。
今回の調査では、これからの大人として大事なことの一つとして「利他的であること」があげられました。この「利他」について、哲学者の國分功一郎は、著作の中でこう書いています。1)
「あの譬え話の中でサマリア人は、身ぐるみを剥がされ、半殺しの状態で地面に横たわっている旅人を気の毒に思い、介抱するだけでなく、宿に連れて行って宿代まで支払います。この人物は旅人を前にして何か応答しなければならないという気持ちを抱いたのです。(略)
利他はこのサマリア人が感じたような義の心を一つのモデルにできると思います。それは中動態においてとらえられる応答としての責任であり、帰責性からは区別される責任なのです」
國分は、社会的、法的な責任(帰責性imputability)と「心の中で感じる責任 responsibility」をわけています。そして、「利他」は一人ひとりの心の中で発生する「応答しなければならない」と心から感じる責任をモデルにできる、と言います。
このように考えると、「社会的、法的責任を問われないことについても、社会のために自ら責任を引き受け、応答しようとする人を、大人という」のかもしれません。
大人は年齢によって規定されるものではないですが、実態として人は歳をとるにつれて、「人や社会の役に立ちたい」と考えるようになり、利他的になる傾向があるようです。つまり、人生100年時代は、「大人」が多い社会になる可能性は高いでしょう。そして、「大人」が多い社会は、誰にとっても生きやすい社会になると思います。
「成人の日」は、「おとなになったことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます」日でした。
この日を、新成人のためだけのものではなく、「おとなになったと自覚し、みずから生き抜こうとするすべての人を祝い励ます」日とみなすと、大人を増やし、生きやすい社会をうみだすことができるのではないでしょうか。
〔100年生活者調査~大人篇~〕
■調査目的 :100年生活の実態について把握する
■調査手法 :インターネットモニター調査
■対象地域 :日本 全国
■調査日時 :2024年12月
■調査対象者 :18歳~80代の男女 800名
■調査会社 :株式会社アスマーク
一人ひとりが100年間の人生を、100%生ききることができる社会を目指し、
研究に取り組んでいます。
共著に『マーケティングリサーチ』。